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Sakiko Yoshikawa

 / 吉川咲子 – Delicious Colors / Symbol

櫻井伸也Delicious Colors / Symbol

日本とイタリア(トリノ)を拠点に活動するアーティスト、櫻井伸也。
日本で染色の技術を学び、イタリアで色彩の研究を重ねた経験を活かし、これまでさまざまなテーマの絵画シリーズを制作してきました。
近年、それらの中で一貫して試みられているのが、模様を入れた布を支持体に、透明感ある絵具を塗り重ねた複数層の画面構成です。こうした発想は、外国での制作活動を送る中、「ヒロシマ」に対する海外からのイメージと、自身が生まれ育った広島の姿との「ズレ」を意識したことに起源があると言います。今回の展覧会で紹介される〈Delicious Colors〉、〈Symbol〉シリーズもまた、そのような櫻井作品の特徴を備えています。

〈Delicious Colors〉シリーズは、カラフルな水玉がポップで可愛らしく、透明感ある絵具がツヤツヤと光って鑑賞者の目を引きつける作品。その絵肌は、思わず触ってみたくなるほど滑らか。絵具に樹脂を混ぜることで、その独特なマチエールは作られています。近づいて見ると、支持体になっているドット模様の布が絵具の隙間から覗いていることに気づくでしょう。側面は、支持体の模様がより明確にわかる作りになっており、鑑賞者にあらゆる角度から作品を見る楽しみを与えてくれます。そして何より印象的なのが、スプーンとフォークの痕跡です。それらの型は、表面の絵具を欠けさせるほど深く作品の中に入り込んでいます。ケーキのような複数の層、ゼリーのようなツヤ感、小さく丸みのあるカラフルなモチーフ、といったように、もともと櫻井作品にはスイーツを連想させる視覚的要素が多分にありました。そこへ、カトラリーで物理的に絵の表面を崩すことにより、実際にスイーツを掬っているような触覚的要素までもが加わって、鑑賞者はまさに「Delicious Colors」を味わうことができるようになったのです。

一方、新作〈Symbol〉シリーズは、これまでの作品をベースにしつつも、それまでとは趣が異なる挑戦的な作品群。支持体の布の模様にストライプ、ボーダーが初めて表れ、イコンでも星のマークが新たに登場しています。型押しされた上から絵具を流し込まれたことで、浮き上がるように可視化されたイコンはどこか神秘的。また、カラフルなイメージが先行する櫻井作品のなかで、白を基調とした絵画が制作されたことにも新鮮な驚きを感じます。このような新作での表現が、わたしたちの感覚にどのように訴えてくるのか、ぜひ作品の前で体感していただきたいと思います。

吉川咲子(ふくやま美術館学芸員)